
「チューリップの花がきれいに咲いていた。いかにもニッコリニッコリわらって咲いているようであった」太平洋戦争のさなか、琵琶湖のほとり。戦争という混乱の時代に、文化がないなら文化をつくろうと考えた教師の発案ではじまった学級日誌がありました。そして、この学校の校長は「総合教育」「土に親しむ教育」に一生懸命でした。 ふしぎな明るさを放つこの日誌には、鮮やかな色彩の絵とともに、毎日の学校生活がゆたかな筆致で語られています。しかし、戦況が厳しくなるにつれ、少女たちの言葉にも好戦的なものが増えていきます。「敵米英をたたきつぶしてしまえ」子どもたちの暮らしやこころの中にまで、じわじわと侵食していく「戦争」のすがたが、彼女たちの目をとおして浮かびあがってきます。 戦時中の5年生の女子生徒たちが1年間描き続けた、188枚の学級日誌全記録。その貴重な記録である日誌は「どこにでもあった戦争」を現代につたえます。戦時についての解説付。オールカラーの大型本です。
『戦争の時代の子どもたち――瀬田国民学校五年智組の学級日誌より』(岩波ジュニア新書)

この本に紹介する学級日誌は,太平洋戦争末期(1944年3月〜1945年4月)にかかれたものです.書き手は,瀬田国民学校(滋賀県)に通う5年智組(当時)の少女たちです.
戦局が日に日に悪化していくなかで,国民生活も逼迫した状況であったことは,みなさんもご存知の通りです.大都市を中心に空襲も激しくなり,本来,学業優先であるはずの子どもたちの生活も激変していきます.限られた空間の記録ではありますが,当時の様子がリアルタイムで綴られているという点では歴史的史料としても面白く,同時に戦争が子どもたちの日常にどのように入り込んでいたのかが,さまざまな行事や出来事の中から子どもたちの心情とともに読み取ることができます.
それにしても逼迫した状況下に生きながら,学校生活を色彩豊かに,しかも子どもらしいのびやかさと素直さで綴っている点には非常に驚かされます.あの抑圧された時代のものとは思えません.色彩や文章にでている自然を観察する力,感じる力,そして表現する力は,戦争という現実だけには染まらない感受性が子どもたちの中にあることを示してくれています.それらが,どのようにして育まれてきたのかも,本書では言及しています.あの時代を別の視点から見る手がかりに,きっとなることでしょう.
(編集部 山下真智子)